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「解析者の立ち位置」について僕が思うこと。

ログ解析

こんにちは、 @ です。週に2、3回は更新しようと思いつつ、今週はこの1エントリーのみです…頑張ります。

本日のエントリーは僕の考える「解析者の立ち位置」について書いています。僕は自分の立ち位置(=役割)を明確にすることが、仕事で成果を出すための重要な要素かなと思っています。ところで、僕のこれから話す「解析者」というのは一般に認知されているような、いわゆる大企業の研究機関、「**研究所」と名のつく機関で解析に関する新しく高度な「手法」を生み出し、大規模解析基盤を構築し、論文もばりばり書き、手法や基盤それ自身が価値を持ち売上げになるようなエクセレントな人々の事を指すわけではありません。100人にも満たないwebベンチャーで、より現場に近い所でログ解析に携わる仕事をする人を指します。

本日の内容

  • 新しいタイプの解析者が求められる時代に
  • 解析者の仕事って何だろう
  • 解析者の立ち位置とは

新しいタイプの解析者が求められる時代に

色々な場所で解析が必要になってきた

最近のWeb業界の勢いは本当にスゴイですよね。僕のバイト先の芸者東京エンターテインメント GTEが現在身を置いている業界、ソーシャルアプリ業界で特に顕著な話ですが、ベンチャー企業の10〜30人程の規模でありながら数百万人、時には数千万人のユーザー会員を抱えることができ、年間売上も10億円を超える企業も多数あったりします。そういった所では日々集積されるデータ(ログ)は1日に圧縮ファイルでも10GB以上、月に数百GB、時にはTB近くになったりします。また、完全なBtoCのサービスであり、従来のWebアクセス解析のようにクリックや遷移をウォッチするのではなく、ユーザーの行動や興味・関心といった所をウォッチして次の戦略に反映していかないといけません。そうした状況もあり、この業界でもデータに基づく様々な指標の重要性が再認識され、連日行われるソーシャルアプリのイベント等ではプロバイダーが「課金率はy%以上」とか「ARPUはxxxx円」とか、様々な指標とその目標数値を述べながら議論されるようになりました。そういった状況もあり、「解析者」や「データマイニングエンジニア」がこの業界でも求められるようになり、またその仕事の価値も少なくとも以前よりは上がったような気がします。

なぜweb業界の解析者は新しいタイプなのか

ではそういった解析者は前述したような研究所で働く解析者と同じような価値観で見られ、同じような結果が求められるのでしょうか?僕は全く異なっていると思っていて、全く新しいタイプの仕事だと思うんです。一番違うことは、求められるものが、手法の開発や高度な基盤構築自身ではなくて、それらをツールとして駆使し、何とかして自社のサービス向上のために施策を打ち出していくことにあると思っています。そのために「作る」側にも「使う」側にも回り、しかもエンジニアだけではなく経営者や企画者とも深く関わって行くコミュニケーションやフットワークの軽さが重要になってきます。ただあくまで理系専門家として、理論的に意見を出していく所ではマーケッターよりはもう少し専門的な仕事だと思っています。

解析者の仕事って何だろうか

それではより具体的にどのような仕事をするのか、ソーシャルアプリ業界で働く僕の日々の経験から考えてみたいと思います。

1. データを以前より多様な指標で集計
2. CMやイベントの効果の効果測定
3. UIやパラメータの複数のパターンから最適な設定を決定する
4. パーソナライズ:ユーザー個々に最適な設定を施す
5. 機械学習や強化学習を用いたサービス最適化

1. データを以前より多様な指標で集計する

もっとも基本的な仕事は、デイリーの集計を行うことです。先日の売上げやアクティブユーザー数・全体課金額などの基本的で大枠の部分は自動で出してくれるツールがあったり、プラットフォーム側で提供してもらえたりします。それではアイテムごとの課金額内訳はどうだったのか、のべでどれくらい友人と交流があったのか、などのより具体的な内訳を見れるようにし、かつ時間軸やユーザー属性の軸、課金の軸などの様々な切り口で眺められるようにします。これをレポートやWebから閲覧できる形にして関係者に提供します。

2. CMやイベントの効果の効果測定

ソーシャルアプリではミニイベントや機能追加、アイテム追加といった機能変更・追加がかなりの頻度で行われています。時にはCMを展開したりもします。なにせ競争がとても激しい業界ですので、逆に何もしないとすぐにユーザーを失ってしまいます。打ち出したイベントやCMの効果の大きさによって月の売上げは大きく変動します。なのでそういった各種イベントの効果を測定するのはとても重要な仕事になります。様々な指標の中のどの部分に効果が見られるのか、あるいは相乗効果はあったのかといった相関を見つけ出すといった所を調べていきます。

3. UIやパラメータの複数のパターンから最適な設定を決定する

前に述べた2つはいわば「過去」に対しての解析であるのに対し、ここでは「未来」に対して意志決定の支援を行います。例えば複数用意されたUIやパラメーターから最適なものを決定するといったことが挙げられます。ユーザーごとや時間毎に数パターンのUIやパラメーターを適用し、どの設定が最適であったかを統計的に決定します。しかし、誰の、何に対して最適を定義するのか、本当に最適なのか、といった判定は難しく、また全ての条件を同じにして比較することもできませんので、導き出された決定に何も考えずに従うのは危険かもしれません。

4. パーソナライズ:ユーザー個々に最適な設定を施す

解析ノウハウも蓄積され、データも蓄積されてパターンがわかってくると、ユーザーをゲーム継続期間や課金額といった属性でカテゴリ分けしたしていたところをより細かく、ユーザー個々に対して最適なアクション(パラメータ設定)を半自動で決定するといったことができるようになってきます。簡単なところでは1週間ログインしていないユーザーにはログインを促す通知を行う、といったものから細かいパラメーター調整、ユーザー個々のステータスに応じて例えば当たりの確率やレアアイテムの出現率を変更させて、テンションを維持させるための施策といったものが挙げられます。

5. 機械学習や強化学習を用いたサービス最適化

さらにもっと高度な技術である機械学習人工知能といった技術を用いてサービス自身が学習し意志決定するようになれば、サービスの最適化を自動で行ってくれるようになれば、企画者や経営者の負担をだいぶ軽減させられる事ができます。例えばソーシャルリコメンドや自動イベント発生機能といった、パーソナライズよりもより目に見える形の施策を自動で打ち出していきます。

どこまでやるのか?

今述べたことが下に行けば行くほどより高度になっていき、現実味を失っていくのがわかると思います。そして、初めは企画者や経営者の意志決定を支援するような役割であったものが、彼らに代わって自動で意志決定を行うといった役割を持ったものに変わっていきます。そして僕たち解析屋としては、「機械学習やってます!」と言った技術アピールをしたいところです。しかしながら現実問題として、本当に5.のような所までやるべきなのかというと、僕は必要ないと(今のところ)感じています。できれば4.までやりたいところですが、実際は3.までできれば十分なのでしょうか?その理由としましては、

(a) 深い解析をやる時間も資金もない
(b) 企画者の打ち出すイベントに売上げが大きく依存している
(c) それがサービスや売上げの解析に(高確率で)結びつかない
(d) 解析結果を専門家以外理解できない
(e) 解析者個人の趣向がどんどん入り込んでしまう

などがあると思います。

(a) 深い解析をやる時間も資金もない

僕たちの打ち出すサービスは1年も持たないかもしれません、かつ次々に新サービスを同時並行にどんどん打ち出していきます。次のサービスにもきっちり対応していく事の方が重要ですし、短命のサービス1つ1つに時間もお金もそんなにかけられません。現実的に考えて、そこまで深い解析をじっくりやるのは難しいと思っています。

(b) 企画者の打ち出すイベントに売上げが大きく依存している
(c) それがサービスや売上げの解析に(高確率で)結びつかない

では、そもそもそんなに深い解析が必要なのかという問題ですが、たぶん必要ないと思います。それは売上げに関してもっとも重要な事は、企画者の打ち出すイベントの質や数、つまり人間の勘に大きく依存するからです。デイリーの課金額の推移を可視化してみると顕著になるのですが、平坦な部分なんて無いんです。あるのは山か谷のみ。そして山となるのはイベントを打ち出した時で、その後すぐに減少の一途をたどります。そして何もイベントをしないとどんどん課金額は落ちていきます。やはり機械的にはユーザーの心に刺さる施策を自動で見いだすのは困難ですし、それがタイムリーに行われなければいけないので高度な解析や機械学習の結果が人間以上の結果をもたらすのは難しいでしょう。

(d) 解析結果を専門家以外理解できない
(e) 解析者個人の趣向がどんどん入り込んでしまう

いくら高度な技術を元に結果を導いても、それが周囲に理解されなければ全くもって意味がありません。僕たちエンジニアで怖いことは、無駄に技術を駆使した自己満足の結果をもたらしてしまいがちな事ですし。データは人を説得させるものであっても、それ自身が誰にも理解されずに勝手に一人歩きしてもどうしようもありません。前述したとおり、人間の勘が重要なサービスにおいては人が理解できない事は意味がありません。それによる効果がどれほどなのかも後に判断しにくいですし。

解析者の立ち位置について

それでは僕たちはどのような立ち位置で(役割意識を持って)仕事をしていけば良いのでしょうか?僕の思うところを書きますと、

(A) 解析者は企画者や経営者の意志決定を支援する役割に徹するべき
(B) データに基づいた論理的な理論や根拠を明確に相手に伝える能力が必要
(C) 高度な事をやるよりも素早く、わかりやすい結果を出すことに注力する
(D) 時には解析以外の仕事をするを得ないことを受け入れる
(E) 自社のサービスに対して、誰よりもファンであるべき

(A) 解析者は企画者や経営者の意志決定を支援する役割に徹するべき

僕が解析者としての一番の役割は「企画者・経営者の意志決定を(データの立場から)支援する」ことだと思っています。そしてそれは解析者でしかできない唯一の役割でもあると思います。人間の勘に置き換わる結果や仕組みをもたらすのではなく、人間の勘が最大限に活かせるような情報や結果を提供するのです。そのためにどのような集計や解析をするのかを考え、また企画側と常に距離を近くして、どのような要望があるのかをきちんと理解しておくといったコミュニケーションが重要になると思っています。もちろんエンジニアにも解析の結果をきちんと伝えないといけないですし、どのような記録を、どのような形式で残して欲しいのかを伝えることも重要です。

(B) データに基づいた論理的な理論や根拠を明確に相手に伝える能力が必要
(C) 高度な事をやるよりも素早く、わかりやすい結果を出すことに注力する

そうすると相手にいかにわかりやすく伝えるのかをちゃんと考える必要があります。どのように表にまとめるのか、どのようなグラフを出すのか、それをEXCELで出力するのかWebアプリとして出力するのか…こだわりすぎても問題ですが、社内向けだからと言って手を抜きすぎても問題のように思います。また、出力としてはわかりやすいものにしないといけないですが、結果自身は専門家にしかできない、かつ明確な論理に基づいたものでないといけなません。

(D) 時には解析以外の仕事をするを得ないことを受け入れる

話が少しそれますが、ベンチャーで働く以上、自分の仕事だけに固執するのも良くないと思います。解析という仕事はとても重要ですが、経営が厳しい時には真っ先に切られる仕事でもあると思っています。何より企画し、それを実装してお金にしていく事が最優先で、結果の解析などはどうしても後回しです。実際、多くのベンチャーでまだきちんとログ解析ができていないのもそいういった優先度があるからで、これは仕方の無いことだと思っています。そういった意味では、エンジニアとして開発実装やインフラ回りを兼任できる最低限の能力は必要だと思っていますし、それを受け入れる覚悟も必要だと思っています。そして、そういう仕事であるからこそ、自らの市場価値を高めるための日々の努力はとても重要だと思います。

(F) 「自社のサービスに対して、誰よりもファンであるべき」

この言葉は当時GREEの採用面接に行った時に、データマイニングエンジニア、森さんから聞いた言葉で、今でも非常に心に残っています。企業におけるデータマイニングにおいては、選択(どういうデータや手法を用いるのか)と意志決定(結果から的適切なアクションを起こす)が非常に重要です。そしてそれを適切に見分けるためには、何より解析者自身がサービスに精通していないといけないということです。誰よりもサービスについて知っていなければ良い解析はできません。

最後に

今回もだらだらと長くなってしまいました。おそらく、解析者の立ち位置なんて個々のスキルや会社の規模によって全然変わってくると思います。ただ、その時その時に自分の立ち位置を明確にしておいて仕事をこなしていくのはとても重要なことに感じています。とりわけ、解析者なんて社内では希少種ですし、周囲がせわしなく開発のリリースやバグ処理に追われている中でじっくりログを眺めているなんて時にはうとまれたりしますし、自分の存在価値が問われたりすることは多いと思います。だからこそ、自分はこの会社で解析者として何をもたらすことができるのかを明確に持って、それに向かって全力で取り組む姿勢が重要になってくると個人的には思っています。

まあ、何より僕にとっては今の仕事が楽しくて仕方ありません。また、企画の人からも「こんな数字が見たい」とか、「今日こんなイベントしたけど、どんな感じやった?」みたいに僕に色々意見や要望を言ってくれますし、少なからずデータを重視しようという文化に変わってきましたし、まだまだ自分のやれていることなんて微々たるものですが、しっかりと地に足をつけて取り組めているなと感じています。面白い結果がでればまたブログや勉強会で発信していきたいと思っています。

データマイニング、特に機械学習については概要を http://labs.gree.jp/blog/2010/09/1310/ にも書かせていただきました。参考になればと思います。